ブランシエラ ヴィラ 明日香

あすかの建物がたり

築百五十年余、
綿々と綴られた
建物の物語

時を超えて今、
新たに生まれ変わった古民家は、
明治三年(一八七〇年)、
「飛鳥坐(あすかにいます)神社」の
参道に面した地に
明日香村にある
ほとんどの民家と同じように
農家住宅として建てられました。
参道沿いの主屋は、
奈良盆地に広く見られる町家建築、
背後の離れには、
農家ならではの
牛小屋や納屋がありました。
「あすかの建物がたり」では
築百五十年余年、この建物に刻まれた
さまざまな記憶をご紹介していきます。
※この建物は、「国の登録有形文化財(建造物)」です。

あすかの建物がたり
甘樫丘(あまかしのおか)から大字飛鳥を眺めると飛鳥坐(あすかにいます)神社の参道に広がる農村集落であることがよくわかります。
〈写真撮影:厚見昌彦氏、奈良県立図書情報館今昔写真WEB 蔵〉
明日香村大字だいじ飛鳥、
ひとつの古民家との出会い

物語は、明日香村大字飛鳥の「飛鳥坐(あすかにいます)神社」参道沿いに佇む古民家との出会いから始まります。この古民家の建つ場所は、今から約千四百年前、推古四年(596年)に創建された日本で初めて本格的な伽藍配置を持つ大寺「飛鳥寺」跡の国指定史跡内にあり、かつて「講堂」のあった場所の北西側に位置します。この地周辺は、日本の国づくりが繰り広げられた場所であり、遥かなる時を超えて歴史の浪漫を感じることができるところ。私たちのものづくりは、この地の歴史や由緒を知ること、そして、巡り会えた貴重な日本の伝統建築物に向き合うことから始まりました。

飛鳥寺跡
飛鳥寺跡
仏教を保護した蘇我馬子の発願により、推古天皇四年(596年)に創建された日本最初の本格的寺院。三つの金堂が塔を囲む伽藍配置の大寺で、「法興寺」「元興寺」とも呼ばれる。本尊の釈迦如来坐像(重要文化財)は、飛鳥時代に作られた日本最古の仏像として、「飛鳥大仏」の名で親しまれています。
時は明治の初め。
百五十余年前に建てられた、
飛鳥の町家建築と農家住宅

主屋は、その参道に佇み、いぶし色の屋根瓦、白い漆喰壁、年月を経た木部、そして細格子が印象的な、つし二階建ての町家建築です。農家住宅でもあるため、背後に牛を飼っていた廐舎や農機具を入れ籾や玄米を貯蔵していた納屋、別座敷が離れのように建っていました。主屋は「茜の間」、離れは「山吹の間」。古民家のディテールを見ながら、当時の生活に思いを馳せてみましょう。

建物がたり
【 エピソード 01 】
「茜の間」・「山吹の間」の外部篇

「茜の間」

煙出し
煙出し
Kemudashi

昔は竈(Kamado)で薪を焚き煮炊きをしていたため、その煙を屋外に出すために屋根の上に小さな屋根が載っています。この地では、けむりだしではなく、けむだしといいます。中から見ると昼間は自然光がさし、吹抜空間を明るくしています。

鬼瓦
鬼瓦
Onigawara

瓦屋根の棟端には、鬼瓦が載っています。小口を塞ぎ水の浸入を防ぐモノですが、装飾性にあふれています。鬼瓦といいますが、鬼面ではなく、建設当初の家主の家紋、「丸に隅立四つ目」が見えます。その上に「鳥衾(Torifusuma)」が付き、その名の通り、鳥が羽根を休めていることがあります。

むしこ窓 格子
むしこ窓
Mushiko-mado

低い二階のことをつし二階といいます。つしとは、厨子と書き、物入を兼ねた屋根裏のことで、その通気窓がむしこ窓です。漆喰塗で塗り込まれた格子窓で関西方面に多い意匠です。虫籠窓という字を当てることもあります。この形は木瓜型(Mokkou-gata)という日本の伝統的な文様で、縁起が良く、一番多く使われている型です。

格子
Koushi

つし二階のむしこ窓と一階の格子によって伝統的な町家の表情となります。京町家では洗練された格子の意匠と職業が結びついていますが、飛鳥では太い格子はシモミセ、細い格子はミセノマ、オクミセに使われています。この主屋には、シモミセがないため、切子格子、あるいは親子格子といわれるリズミカルな格子で、外壁から出っ張っていない平格子となっています。

戸袋
戸袋
Tobukuro

格子に目が奪われますが、戸袋が二ヵ所あります。戸袋とは雨戸や板戸をしまうための場所で、外側に意匠を見せます。左手にある戸袋は本来の玄関引き戸をしまい、中央にある戸袋はミセノマにあった戸をしまっていました。玄関の戸袋は下見板張り、中央は竪板張りの目板押さえ、なぜ意匠が異なっているのでしょう。

「山吹の間」

駒繋ぎ
駒繋ぎ
Komatsunagi

この地方の農家住宅には厩舎があり、農作業に欠かせない牛を飼っていました。「駒」とは、馬のことですが、駒を繋ぐための鉄のわっか、鐶(Kan)のことを駒繋ぎといいます。ここでは牛を繋いでいました。さあ、どこにあるでしょう。

厩舎
厩舎
Kyusha

ここが厩舎だったところです。目線の高さにある、横に流した棒に牛の首紐を架け渡していました。外部にその一部が残ります。左手の開口分は牛の出入り口です。味わい深い凹凸のある柱にあった痕跡に合わせて2本の横棒が復元されました。

オトコシベヤ
オトコシベヤ
Otokoshi-beya

ここは元オトコシベヤでした。オトコシベヤとは使用人が住んでいた部屋で、雨戸の戸袋の位置を見ると少し高い位置に床があったことがうかがえます。今は、厩舎と共に外観だけ残して、内部はすっかり変わっています。

藁面戸
藁面戸
Waramendo

軒裏に目を移すと40センチ位の長さで藁を束ねて紐で縛ったモノが挟まれているのが目に入ります。ここは面戸といい、垂木に挟まれた軒桁と野地板の隙間で、板で塞ぐと面戸板といいますが、農村集落なので、板でなく藁で面戸を塞いでいます。

焼杉板
焼杉板
Yakisugiita

白い漆喰壁に表面を焼いた杉板は印象的です。今は電気で焼いた既製品が主流ですが、ここでは本当に火で焼いた杉板を外部に張っています。表面を焼くと炭化し、杉板の劣化を抑えます。そして土壁を雨から守るために張られています。何よりも杉板の節や年輪に合わせて変わる表情がおもしろいです。

NEXT

【 エピソード 02 】
「茜の間」・「山吹の間」の内部、
外構篇
エピソード 02
エピソード 02
エピソード 02

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